年5日の有給休暇の取得の義務化!労務管理者のすべきこととおすすめの管理方法
2019年4月1日から、企業側が労働者に「年5日の年次有給休暇の確実な取得」をさせることが義務付けられました。しかし、有給の取得が義務化されたとしても、どのような場合に違反と見なされ、罰則が適用されるのかがわからないという人もいるでしょう。そこで、人事労務の管理者のために、有給休暇取得の義務化の概要や有給を管理しやすくするための方法について紹介します。
まずはざっくり説明!有給休暇取得の義務化とは?
有給休暇取得の義務化とは、2019年4月1日より施行された働き方改革関連法の一環であり、労働者に最低でも年5日の有給取得を義務付けるという決まりのことです。大企業から中小規模まで、企業の規模にかかわらず適用されます。有給休暇の買い取りを行っている企業も例外ではありません。ただし、労働者が自発的に有給を取得するのを待つだけでは義務を果たしたことにはならないため注意が必要です。
使用者は年5日の有給を取得していない労働者と話し合い、労働者が希望する日程の通りに有給を取得させる必要があります。管理者側から有給を取得したい日を聴取するための行動を起こさなければならないという点が、働き方改革関連法施工以前との大きな違いです。
違反した際の罰則
有給休暇義務は企業に法律により企業に課せられた義務です。そのため、違反した企業は30万円以下の罰金に処せられます。具体的には、有給取得の義務がある労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させなかった企業に対して罰則が適用されますが、どの程度取り締まりが強化されるかは労働基準監督署の運用方法次第です。なお、罰金は有給を取得していない労働者1人あたりの金額なので、対象となる労働者が100人なら、3000万円以下の罰金が科される可能性もあります。このように、違法な行為をすると非常に大きな制裁が適用される場合もあるため、企業は有給休暇義務に向けて十分な対策と準備を行わなければなりません。
「年5日」って?期間の数え方について
有給の付与日は労働者ごとに違うケースもあるため、年5日の有給取得を義務付けられても、どのように考えればよいのかわからないという人もいるでしょう。そこで、有給期間の数え方について詳しく説明します。
入社の半年後に有給を付与した場合
まず、有給休暇の取得義務が発生するのは、入社後半年が経過した労働者に有給を付与した場合です。労働基準法により、入社後6カ月が経過しており、かつ全労働日の8割以上出勤している労働者には、10日の有給が付与されます。この場合、有給が発生した日を起点として、1年間に付与しなければならない有給を計算しましょう。たとえば4/1に入社した労働者には、10/1の時点で有給が発生します。そのため、翌年の9/30までに、5日間の有給を取得しなければならないのです。
入社日に有給を付与した場合
入社と同時に前倒しで有給を付与している企業の場合、入社日を起点として有給の取得日を計算します。たとえば、4/1入社の労働者に10日間の有給を付与したのであれば、翌年の3/31までに5日間の有給を取得しなければならないのです。4/1からは再び、年5日の有給取得義務が発生します。なお、10日分のうち5日分を入社時に付与するなど、有給を前倒しで付与する場合は、付与日数が合計で10日間に達した日から1年以内に5日間の有給を取得すれば、罰則の対象にはなりません。
たとえば、4/1入社の時点で5日間、3カ月後の7/1にさらに5日間の有給を付与する場合は、翌年の6/30までに5日間の有給を取得する必要があります。なお、付与日数が10日間に達する前に、労働者が自発的に有給休暇を取得していた場合は、取得した日数分を5日間から控除しましょう。
フルタイム勤務でない労働者は対象?
正社員や契約社員などのフルタイム労働者に限らず、パートタイム労働者にも有給休暇は付与されます。ここからは、フルタイムではない労働者の有給休暇義務について見ていきましょう。
所定労働日数が週3日・4日の労働者は対象
まず、パートタイム労働者であっても、週4日勤務かつ入社後3年6カ月継続して勤務しており、さらに直近1年間の出勤率が8割以上であれば、年10日の有給が発生します。そのため、年5日は必ず有給を取得させなければなりません。また、週3日のパートタイム労働者も、入社後5年6カ月継続勤務しており、直近1年間の出勤率が8割以上という条件を満たしていれば年10日の有給が付与されるため、年5日の有給取得義務が発生します。なお、1週間あたりの所定労働日数が4日の場合は年間169~216日、3日の場合は121~168日相当です。勤務日数が週により異なる場合は、年間の労働日数から有給取得義務の対象となるかを判断すると良いでしょう。
所定労働日数が週2日以下の労働者は対象外
所定労働日数が週2日以下、年間120日以下の労働者の場合、有給休暇は最大でも年7日間しか付与されません。年間の有給付与日数が10日に満たない場合は、有給休暇取得義務の対象にはならないので注意しましょう。
会社からの「時季指定」が不要な場合
使用者が時季を指定したうえで、労働者に有給を取得させることを時季指定といいます。年5日の有給を取得していない労働者に対して、会社は時季指定をしなければなりません。ただし、取得時季は使用者の都合で決められるわけではなく、あらかじめ労働者の意見を聴取しておく必要があります。また、労働者の希望に沿った時季に有給を取得できるよう、意見を尊重するのも使用者の義務です。
なお、既に年間で5日間の有給を取得している労働者に対しては、時季指定を行う必要はありません。そのため、もともと有給休暇を取得しやすい風土作りができている会社にとっては、有給休暇取得義務が適用されても大きな影響はないと言えるでしょう。多くの労働者が年5日は有給休暇を自発的に取得できるような環境を整えるのも、有給休暇取得義務を果たすための対策のひとつです。
会社側で管理しやすい時季指定の方法
有給休暇取得義務化にあたり、労働者ごとに有給の付与日が違えば年間の期日も労働者により異なります。そのため、期日の計算や日数の管理が難しいとい感じることもあるでしょう。そこで、厚生労働省が推奨する有給の計画的な管理方法を紹介します。
年次有給休暇取得計画表を作成
まずは労働者個人の有給休暇取得計画表を作成しましょう。ただし、必ずしも日付を特定する必要はありません。「6月中旬に2日取得予定」というように、大まかな予定を組んでもらうことで、確実に有給を取得できるでしょう。この方法を使えば、労働者が希望日を申告しやすくなるだけではなく、企業側も誰がいつ休むのかを把握できるようになります。万が一、特定の時季に希望日が集中していたとしても事前にわかるため、取得時季の調整や管理もしやすくなるのです。
計画表は年度ごとに作成しても問題ありませんが、会社によっては年度の後半へ向かうほど状況が変わり、当初の予定通りに有給を取得するのが難しくなってしまうこともあるでしょう。そのような場合は、四半期ごとや月ごとなどの短い期間で計画表を作ることで、より柔軟な対応ができるようになります。
計画年休制度の導入
計画年休制度とは、企業側が前もって有給の取得日を割り振る制度です。この方法を活用すれば、閑散期などに事業部ごとやグループごとに交代で有給を取らせることができます。さらに、休日の前後に有給を取得することにより、大型連休を与えることも可能です。なお、この方法を個人に適用すれば、結婚記念日や誕生日などの決まった日に取得を促し、計画的に有給の消化を促すという方法もとれるでしょう。
この制度は、企業が業務運営や労務管理をしやすくなるだけではなく、労働者も引け目を感じることなく有給を取得できるというメリットもあるのです。ただし、計画年休制度を導入するには、就業規則に計画年休を取り入れる旨を定めたうえで、労使協定を締結しなければなりません。企業側の一存で、すぐに計画年休制度を実行できるわけではないため注意しましょう。
労務管理者がすべきことは以下
有給休暇取得の義務化の概要や対策について理解したら、実際に社内の制度や労務管理のシステムを整備しなければなりません。ここからは、有給休暇取得の義務化へ対応するにあたり、管理者側がどのように動くべきかを具体的を紹介します。
年5日の有給を未消化の社員への対応
万が一、年5日の有給を消化できていない労働者がいた場合、管理者は有給を取得するよう声掛けを行うなどの対応をしなければなりません。そのため、労働者の有給取得状況を常に把握できるような仕組み作りが求められます。たとえば、有給休暇の取得率が低い会社なら、計画年休制度を取り入れることで、取得状況の確認や声かけがしやすくなるでしょう。一方、自発的に有給を取得する風土が根付いている会社であれば、労働者が希望日を自由に決められる個別指定方式を導入するのもひとつの方法です。
年次有給休暇管理簿の作成・保存
年次有給休暇管理簿は、労働者ごとの有給取得日や取得日数を把握するうえで非常に便利なツールです。ただし、作成した年次有給休暇管理簿は、3年間の保存が義務付けられています。書類を作成する際は、時季や取得日数、有給を付与する基準日を必ず明らかにしましょう。特に、四半期ごとや月ごとなど、期間を細かく設定する場合は保存する書類の量も増えるため、紛失したり破損したりすることがないよう慎重に管理を行う必要があります。
就業規則の変更や追記
計画年休制度などの新しい決まりを導入する場合は、就業規則に明記しなければなりません。就業規則において、休暇に関する事項は絶対的必要記載事項です。時季指定を導入する旨はもちろん、適用される労働者の範囲や、取得日の指定方法なども忘れずに明記しましょう。また、労使協定の締結も必要です。労使協定とは、労働者の過半数により組織された労働組合か代表者とのあいだで締結する協定を指します。なお、就業規則の内容を変更した場合は所轄の労働基準監督署への届け出が必要ですが、労使協定締結の際に交わした書面については提出する義務はありません。
管理者側が労働者の有給休暇実態を常に把握・管理することが重要
有給休暇の取得義務を怠ると、罰則が適用される可能性もあるため、管理者は慎重に労務管理を行わなければなりません。労働者ごとの有給取得状況を正確かつリアルタイムに確認できるシステムを確立するのが理想的ですが、そもそも有給休暇を管理するためには非常に複雑な対応が必要です。ヒューマンエラーを避けるためにも、可能な限り自動化するための仕組みを作っておきましょう。