第11回 全社 Google Workspace 化が難しい企業の処方箋
Google が主催した Google Workspace Summit 2023では、コラボレーションを促進するツールとして Google Workspace を導入した先進的な事例が紹介されました。
その中で、Google Workspace + rakumo を導入したモスフードサービスなどの取り組みも講演されました。モスフードサービスでは、20年利用してきたグループウェアを Google Workspace + rakumo へ移行して、古い情報システムからの脱却を実現しました。
また、10年かけて準備を整えて、1年半にわたってクラウド化を推進してきた鹿児島県肝付町では、Google Workspace を全職員が利用できる環境を整備しました。その上で、Google Workspace の導入は Windows や Microsoft Office との決別ではなく 「Office 一辺倒だった業務環境に新たな選択肢を提供する」 と提言しています。
Google Workspace に移行するか、Microsoft Office を使い続けるか、という命題は二者択一のように捉えられがちです。確かに、ライセンスの一本化やセキュリティ対策を重視した認証の一元化という意味では、ログインするクラウドサービスはできる限り絞り込むべきでしょう。
しかし、ビジネスで利用する文書や表の取り扱いに関しては、過去と決別するのではなく、互換性や相互運用を心がけた並行運用を推進するべきかもしれません。そこで、連載の最後に Google Workspace の全社規模での導入を推進する企業に、賢い両立方法を提案します。
社会学者のエヴァン・ロジャースが提唱した 「普及理論」 (Diffusion of Innovations)によると、新しいアイデアや技術に対して、多くの人たちは次の5つのグループに分類されるそうです。
イノベーター
新しいアイデアや技術に対して興味を持ち、早期に採用するグループ。
アーリーアダプター
イノベーターグループに次いで、新しいアイデアや技術に興味を持ち、早期に採用するグループ。
アーリーマジョリティ
アーリーアダプターの成功事例を見たり、他の人が使っていることを確認して追随するグループ。
レイトマジョリティ
アイデアや技術が広く普及した後に、採用するグループ。
保守層
新しいアイデアや技術に対して興味を持たず、最後に採用するグループ。
「普及理論」 は、新製品や新たなサービスの提供が、市場や社会にどのように受け入れられるかを推し量る指標として活用されています。新製品のマーケティングでは、いかに 「イノベーター」 から 「レイトマジョリティ」 までの影響を短時間で広げるかが、市場獲得を左右します。
こうした普及理論は、製品やサービスだけではなく Google Workspace のような新しいオフィス環境の導入においても、同様な5層が想定されます。中でも 「保守層」 は、下手をすると 「抵抗勢力」 となってしまいます。そうならないためには、どのような対策が有効なのでしょうか。
その解決の処方箋が、 「小さな成功体験」 と 「否定ではなく共存」 です。
まず 「小さな成功体験」 では、イノベーターやアーリーアダプターに、 Google Workspace による業務改善や効率化の実績を積み重ねてもらい、それをアーリーマジョリティからレイトマジョリティへと伝搬していきます。大きな改革ではなく、ちょっとした利便性や効率化の積み重ねが、最後に保守層に伝われば、 Google Workspace の普及は成功します。
また 「否定ではなく共存」 では、 Microsoft Office を否定するのではなく、本当に必要とする部署や個人には、そのまま残しておきます。 Google Workspace は、 Word や Excel とのファイル互換に対応しているので、柔軟な共存が可能です。社外とやり取りする文書が、どうしても Word 固有の編集機能に依存しているとか、 Excel の複雑なマクロを活用しているとか、アプリ固有の機能に依存しているケースでは、無理に Google Workspace へと置き換えないで、柔軟な共存を推進します。
そうした共存の中で、徐々に Word や Excel に固有の機能に依存した編集やマクロの利用率を下げていって、社外と交換する文書やワークシートも、Google Workspace への移行を目指します。最終的には、固有のアプリや OS に依存することなく、すべての業務をクラウドとウェブブラウザだけで完結できるようになれば、それがデジタルオフィスの新常識となり、柔軟で創造性の高い働き方を推進していくのです。