【寄稿】 建設業の労働環境改善に向けた DX の取り組みとは 第1回中小の建設業が DX 推進にあたって最初にやるべきこと(足立建設工業株式会社 総務部 DX 推進担当 大﨑凌 氏)
建設業で従事する人々の労働環境改善に向けて DX への取り組みが注目されています。一方でどのように取り組むべきか課題を感じる経営者や担当者が多いのも事実です。そこで東京23区で上下水道工事業を行っている足立建設工業株式会社で DX を推進している大﨑凌氏に同社の取り組み、特に中小企業が DX 推進するにあたって意識すべきことなどについてご寄稿(全3回)いただきました。
第1回は、中小の建設業が DX 推進に取り組むにあたって最初にやるべきことについてです。
私は2022年4月、足立建設工業株式会社に DX 推進担当として入社しました。当社は2024年で創業110周年を迎える企業で、東京23区で上下水道工事を行っています。私自身は、前職までデジタルマーケティング及びブランディングコンサルティング事業に携わり、デジタル技術を活用した企業変革を支援してきました。
現在、建設業では2024年問題への対応などもあり、 DX の重要性が叫ばれています。しかし、特に中小建設業の場合、 「DX は難しい」 「うちは人手不足で手が回らない」 といった声が多く聞かれるのも事実です。
そこで本稿では、中小建設業が DX 推進にあたって最初にやるべきことについて、私自身や当社の経験に基づき3つのポイントを中心に解説します。
DX の目的を明確にする
DX は目的ではなく、目的達成のための手段です。そのため、 DX の初手は 「目的設定」 にリソースを割く必要があります。
もし、 DX を目的化してしまうと、 「アナログ業務がすべて悪い」 という誤解が社内に波及し、建設業が社会に対して提供している価値を見誤ってしまう可能性があります。特に中小の建設業には、デジタル技術では代替できない 「アナログ業務」 によって価値を生み出している側面もあります。
建設業デジタルハンドブックによれば、建設業は製造業と比較して付加価値労働生産性が低いとされていますが、裏を返せばロボットや AI などに代替することが難しい 「人が携わる価値が高い業界である」 ことを意味しているわけです。
建設業には 「一品受注生産」 「現地屋外生産」 「労働集約型生産」 といった特性があります。例えば、当社が主とする下水道事業では 「マンホール径による搬入機器サイズの制限」 「地下なので電波が入らない」 「通水中に施工するので精密機器が置けない」 という特性もあります。
つまり、 「建設業はアナログ」 なのではなく、 「建設業はデジタル技術で代替可能な業務範囲が少ない」 という表現がより正しいと言えるでしょう。そのため、自社がデジタル技術で改善できる業務範囲と、代替が不可能な業務、もしくは代替コストに成果が見合わない業務を、まず最初に分類する必要があります。
そのうえで、 「DX を通じてどういった会社に変わりたいのか?」 という目的を定義していくことが、 DX 推進にあたって最初にやるべきことと考えています。当社の場合、慢性的な人手不足や働き方改革などの、時勢の変化に対応するために 「時代や環境の変化に強い企業へ」 という目的を設定しました。
リソースの多寡を 「ハードル」 と捉えない
rakumo 社が実施した調査では、建設業における DX 推進のハードルとして 「利用者側のスキル不足」 「DX 人材不足」 「予算の制約」 などがあがっています。
しかし、これらはすべて 「リソースの多寡」 であり、 「ハードル」 ではないと考えています。リソースが少ないのであれば、少ないなりの 「小さな DX」 に取り組むなど、とにかく第一歩を踏み出して、経営陣や従業員に対して 「変化の成功体験」 を積み上げることが重要です。例えば、デスクトップ PC をモバイル PC に変えるだけでも、業務効率化につながります。
DX 人材が社内に不足しているのであれば、サポートが充実したベンダーを選定したり、国が提供する DX コンサルティング事業を活用したりすることで、二人三脚で DX を進めることができます。また、予算に制約がある場合でも、 Excel に関する書籍やネットのコラムなどを活用して業務の一部を自動化するといった小さな DX を進めることも可能です。
身の丈にあった DX を積み重ねる
このような考え方について、一部の有識者からは 「そんな段階の話は DX とは言わない。真の DX とは〇〇だ!」 と提言されてしまう可能性はあるかもしれません。しかしながら、身の丈にあった施策をひとつずつ積み上げていくことでしか企業に変化は起こせないのもまた事実です。
業界メディアでは、リソースが十分に整っている大企業による DX 成功事例が多く取り上げられています。こうした情報ばかり接し続けてしまうと、 「私たちのような中小の建設業にはあんなことはできない。スキルも人材も予算もないから、 DX は無理なんだ」 と考えてしまうのは自然な流れかもしれません。
しかし、建設業はゼネコン・中小にかかわらず DX を推進する必要があるのは明白です。もちろん、中小の建設業にとって、 DX 推進は決して容易ではありません。
だからこそ、 DX を目的化することなく、自社の目指す方向性を明確にし、リソースの多寡を克服していきましょう。そして、 DX 推進の成功事例に一喜一憂するのではなく、自社の身の丈にあった等身大の DX 推進の一歩を踏み出していただき、持続的な成長を実現していただきたいと願っています。